特異な地質構造の島国・ニッポン。宿命とも言える自然災害を最小限に食い止めるためにするべきこと、しなければならないこととは!?
文・本誌 高木賢
V2H、V2X、電源確保、津波対策、移動手段の拡充、災害に強い道路構築、物流体制の強化、特殊車両の開発······。 モビリティベースの防災対策を展望する。
今年1月1日の能登半島地震の傷も癒えぬ中、今夏8月8日に発生した震度6弱の宮崎沖地震。 同地震の直後に発せられた南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)は、 日本国民の心胆を寒からしめる緊急メッセージだった。
「巨大地震注意」の警戒情報は、未だ記憶に新しい阪神淡路大震災(1995年)、 東日本大震災(2011年)の大惨事を私達の脳裏にフラッシュバックさせ、 南海トラフ地震発生の脅威を意識させるに充分なインパクトを秘めていた。
フィリピン海プレートとユーラシアプレートのひずみが限界に達することで発生すると言われる南海トラフ地震は、 静岡県から西日本地区一帯の一部で最大震度7の揺れを誘発し、 日本列島に未曾有の被害をもたらすと予測されている。 周知のとおり、南海トラフ地震が今後30年以内に日本列島を襲う確率は70%と想定されているのだ。
日本は地質構造上、極めて危うい環境にあるわけだが、 それが避けることのできない宿命であるとするならば意を決して過酷な自然条件と向き合い、 対応していくしかない。 地震の発生を防ぐことはできないが、被害を最小限に食い止めるための備えをしていくことはできるはずだ。 道路・国土の強靱化、治水工事、建造物の耐震化、津波対策、電源確保、物流体制・ライフラインの強化、 通信・医療体制の拡充などするべきこと、 しなければならないことは山ほどある。 自助、共助、公助を問わず、〝備える〟ことの重要性は言わずもがなのことだろう。
もちろん、日本列島が直面する脅威は地震だけではない。 気候変動の影響もあって大雨、集中豪雨、洪水被害の頻度は増すばかりだ。 本原稿を執筆中にも台風10号の洪水被害、土砂崩れの被災状況が次々と明らかになっている。
「これまでに経験したことがない······」。この数年間、気象庁は何度、このフレーズを使った緊急メッセージを発信してきたことか。 確かに今夏、常軌を逸した高気温が列島を覆い、大雨による線状降水帯がどこで発生してもおかしくない異常気象が続いた。 いや、異常が平常化するかのような過酷な自然現象が日本列島を包み込んでいると言った方が正しい表現かも知れない。 日本の亜熱帯化が進んでいることを指摘する専門家は多い。
いずれにせよ、日本は自然災害の大国と言わざるを得ないが、 長い歴史の中で日本人が過酷な自然災害と闘い、苦境を乗り越えてきたことは紛れもない事実だ。 度重なる被災を克服し、再生を繰り返し、強靱な復元力を発揮する度に防災力を強化しきたのが、極東の島国・ニッポンなのだ。
日本には蓄積してきた防災への知見とテクノロジーがある。
今こそ底力を発揮し、難局に備える時だ!
〝モビリティと防災システム〟は「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2025」(6月11日・12日開催)の重要テーマ
今後、大自然の猛威が緩むことは考えにくいが、我々には蓄積してきた知見と進化を重ねてきた防災テクノロジーがある。 今こそ日本人が秘めている底力を発揮し、新たな防災システムを構築する好機と考えるべきであろう。
本誌「Mobility Life」の基本テーマは、〝モビリティを活用したまちづくり・乗り物とまちづくりの未来展望〟である。 今回の緊急特集は本誌の手に余るほどの大きな課題ではあるが、 モビリティを通した防災・自然災害への対応は本誌にとって見逃せない重要な分野であることは確かだ。 V2H、V2X、電動車と電源確保、津波対策とモビリティの活用、 災害に強い道路・国土の強靱化、災害時・被災後の移動手段、通信・物流体制の強化、 特殊車両の提案などはすべて守備範囲としてとらえている。
弊社は毎年、「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO ~自転車・電動モビリティまちづくり博」を主催・運営しているが、 来年6月11・12日に東京・西新宿で開催する同展でもモビリティと防災システムの展望は重要課題として位置づけており、 出展者とともに新たな提案を展開していく。 当然ながら本誌と同イベントは不離一体で、誌面とイベントをリンクさせて共通のテーマを追い求めて、深化させていく方針だ。
モビリティは人の暮らしの安全性、利便性を確保し、社会・経済活動を活性化させるための必要不可欠なツールである。 平時、非常時にかかわらず機能性に優れた魅力的なモビリティを有効活用することによって、 私達はライフスタイルの進化をはかり、新たな社会・経済活動の展望を切り拓いていくと言えるはずだ。
震災に対する〝備え〟が必要不可欠であることは論を待たないが、同時並行的に社会・経済活動を活性化させていくことは何よりも重要なことだろう。 経済的バックボーンがあってこそ、充分な〝備え〟も可能になるからだ。
本号の緊急特集がモビリティと防災対策の進化につながれば幸いである。
前号に引き続き、EV ワイヤレス給電協議会・堀洋一会長(東京理科大学教授)のインタビュー記事をお届けしたい。 同協議会は今年6月に発足した新組織で、 停車中充電システムの SWPT(Static Wireless Power Transfer)と 走行中充電システムの DWPT(Dynamic Wireless Power Transfer)の普及 を推進していく基盤組織としての役割を担う構えだ。
堀会長は強調する。 「最終的に DWPT のネットワークを創ることが資源小国ニッポンが選択するべき道だと考えている。 道路にワイヤレス充電システムを埋め込むことは技術的には容易だが、 関係官庁、自動車業界、充電インフラ業界、道路業界など幅広くコンセンサスを得ることが不可欠だと思う。 そういう意味では DWPTの普及は日本人が持っている能力、技術力を結集すべき国家的プロジェクトと言えるだろう。 世界に誇れる DWPT ネットワークの整備に向けて全力で取り組みたい」
堀会長は資源問題を抱える日本の国情、日本の技術力と DWPTの可能性について日本人論を絡ませながら熱く語った。
(聞き手:本誌・高木賢)
EVの普及はエネルギーに関するグランドデザインの中でこそ進展する。 今こそ街のインフラに対する価値観の転換が問われている──。 以上は本パネルディスカッションの中で高木氏が発した意見だが、 この見解はパネラー3氏に共通した考えでもあった。
EVの充電インフラをテーマとした本パネルディスカッションは 我が国のエネルギー政策の現状とその方向性に対する論議に発展し、興味深い内容となった。 まさにEVの普及は、まちづくりの総体的デザインの中で推進されるべきものだろう。
「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2024 」の2日目、 6月6日に特設ステージで展開された箱守知己、高木啓司、前野博司の3氏による パネルディスカッションをダイジェストで再現した。MCは遠藤まさ子氏が担当。
(本文は雑誌に掲載)
少子高齢化・人口減少に歯止めがかからない中、ローカル地区の交通状況の逼迫が深刻化している。 これからの20年、30年、40年、少子高齢化、人口減少が避けられないとするならば、 それに応じた交通対策、移動手段の確保は喫緊の課題だろう。 人の暮らし、健康維持、そして経済活性化のベースとなる移動手段を構築していくことはまちづくり、 国づくりの不可欠事項だ。
縮小ニッポンの交通対策はいかにあるべきか。地方都市、過疎化地域における移動手段をいかにリカバリーしていくか。 モビリティ変革の時代に相応しい有効な交通対策は見出せるのか──。
上記テーマをめぐり、片岡大造、富和清訓、内海潤の3氏に議論を展開していただいた。
(本文は雑誌に掲載)
現在、国が指定している日本のナショナルサイクルルートはしまなみ海道、 ビワイチ、つくば霞ヶ浦りんりんロード、太平洋岸自転車道、トカプチ400、 富山湾岸サイクリングコースの6ルートだ。 いずれもサイクリストを誘ってやまない上質なサイクリングルートだが、 これらのルートには日本のサイクルツーリズムを牽引するに相応しい独自のフィロソフィーが期待されている。
2019年に導入されたナショナルサイクルルート制度も早5年を経過し、 既存の指定ルート、今後指定される新ルートには地域エリアの魅力を開拓し、広めていく役割が求められているはずだ。 ナショナルサイクルルート制度は〝ナショナル〟の冠に相応しい、新たな高みを目指す段階に入ったと言えるだろう。
6月5日、「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2024 」 の特設ステージで展開された 古倉宗治、小林成基、疋田智の3氏によるパネルディスカッション「日本のナショナルサイクルルート」のダイジェスト版を お届けする。
(本文は雑誌に掲載)
「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 」は、今年も特設ステージで注目のパネルディスカッションを展開した。 先陣を務めたのはTEAM MIRAIを率いて電動バイクの製作&レース参戦に情熱を注ぐ岸本ヨシヒロ氏と FANTIC、GOWOW・ORI、TORROTなど先鋭的マシンの輸入・販売で知られるモータリスト合同会社の代表社員を務める野口英康代表。
岸本、野口の両氏はともにオートバイの世界では広く知られる存在だが、電動バイクに対する造詣の深さも共通項だ。 今回のディスカッションでは新たなカテゴリーとして注目度を増す電動バイクの魅力を語り合っていただいた。 MCを務めたのは自転車ジャーナリストの遠藤まさ子氏。
同ディスカッションの模様をダイジェストでお届けする。
(本文は雑誌に掲載)
自転車は走っている時間よりも駐輪している時間の方が圧倒的に長いはずだ。 であるならば機能的で利便性の高い、多様なニーズをとらえた、 美観に富む駐輪場を創ることがまちづくりの重要な条件のひとつであると言うことができるだろう。
「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2024」では会期の2日目にあたる6月6日、 特設ステージにおいて片岡大造、古倉宗治、内海潤の3氏によるパネルディスカッション「駐輪場進化論」を実施した。
日本国内の駐輪場はもちろん、ヨーロッパの駐輪施設に詳しい3氏の意見は説得力に富み、 明日の駐輪場づくりに貴重なヒントをもたらすものであった。 同パネルディスカッションの模様をダイジェストで紹介したい。
(本文は雑誌に掲載)